個人事業者が親族に対して対価を支払うことがあります。
例えば
①親子でお店を経営している場合で子に給与を支給する場合
②親所有の建物を借りて事業を行い、親に対して家賃を支払う場合
などがこれに当たります。これらが必要経費なるかどうかについては所得税法で規定されています。
このページでは、親族へ支払う必要経費の取扱いについて説明していきます。
目 次
親族に支払う必要経費の取扱い(原則)
所得税法では、親族に支払う必要経費について次のように規定しています。
イ.生計を一にする配偶者その他の親族に支払う給与は必要経費になりません。 (受取った側も収入になりません)
ロ.生計を一にする配偶者その他の親族に支払う家賃等は必要経費なりません。 (受取った側も収入になりません)
ただ家賃の支払いは必要経費になりませんが、その親族が所有している土地・建物などの固定資産税などがその個人事業主の必要経費となります。
生計を一にする親族とは?
「生計を一にする」を国税庁で調べると「日常生活の資を共にする」となっています。
また単身赴任や学生寮に入っているなどで別居している場合でも、生活費などを常に送金している場合や、他の親族と同居している場合などは「生計を一にする」として取り扱うとされています。
生計を一にする親族への支払は必要経費にならない
上記のことから「生計を一にする」親族に対する支払は必要経費にならず、逆に「生計を別にする」親族への支払は必要経費になるということになります。
これが大原則です!!!それを念頭に置いて 例外規定がありますのでそれを紹介していきます。
事業専従者(例外)
個人事業主と生計を一にする親族が、その個人事業主の事業を手伝うことはよくあることですね。この個人事業主の事業を手伝う者を「事業専従者」といいその労働対価として給与の支払いがあるかと思われます。
この給与の支払いは、上記に照らし合わせると必要経費にならないのですが、例外規定として一定の要件を満たすことにより必要経費にすることができます。
その要件とは主に次のようになります。
①個人事業主と生計を一にする配偶者その他の親族であること
②その年12月31日の時点で年齢が15歳以上であること
③その年を通じて6月を超える期間(青色事業専従者で一定の場合には事業に従事することができる期間の1/2を超える期間)その個人事業主の事業に専ら従事(専従)していること
なお 事業専従者には以下のように2種類あります。
■「白色事業専従者」
青色申告書以外の申告書を提出している個人事業主(白色申告者)の事業専従者
■「青色事業専従者」
青色申告書を提出している個人事業主(青色申告者)の事業専従者
注意点として、例外規定は「事業専従者」に対して支払う「給与」のみです。
たとえ「事業専従者」であっても対価の支払いが給与ではなく「家賃その他」になる場合は上記の原則規定により必要経費となりませんのでご注意ください。
事業専従者控除(白色事業専従者)
白色事業専従者に対して支払う給与は、その支払った金額が必要経費になるという概念はなく、以下のような「控除」が認められています。(このことから「白色事業専従者給与」ではなく「白色事業専従者控除」と呼ばれます)
①事業専従者がその個人事業主の配偶者である場合・・・86万円
事業専従者がその個人事業主の配偶者以外の場合・・・50万円
②白色事業専従者控除をする前の事業所得等の金額を白色事業専従者の数に1を足した数で割った金額
上記①と②のいずれか低い方の金額となります。
例えば、所得金額が100万円の場合で事業専従者が配偶者の場合は86万円と、100万円÷(事業専従者+1)=50万円のいずれか低い金額となるため白色事業専従者控除は50万円となります。
白色事業専従者控除の適用を受けるための手続き
この規定は、支払った金額が必要経費とはならないため、帳簿の上では必要経費に記載できず、確定申告にて手続きをすることになります。
そして、その確定申告書に白色事業専従者控除の適用を受ける旨やその他の必要事項を記載する必要があります。(毎年記載する必要があります)
また、白色事業専従者がたとえ要件を満たしていようとも配偶者控除や扶養控除の適用を受けることはできません。
要は「白色事業専従者控除」にするか「配偶者控除(又は扶養控除)」にするか「選択適用」となります。
青色事業専従者給与(青色事業専従者)
青色事業専従者に対して支払う給与は、適正金額かどうかなど一定の要件こそありますが、白色事業専従者と違いその支払った全額が必要経費となります。(このことから「青色事業専従者控除」ではなく「青色事業専従者給与」と呼ばれます)
また、青色事業専従者は「その年を通じて6月を超える期間その個人事業主の事業に専ら従事(専従)していること」という要件までは白色事業専従者と同じなのですが、6月を超える期間については「一定の場合には事業に従事することができる期間の1/2を超える期間」という緩和要件があります。
青色事業専従者給与の適用を受けるための手続き
この規定の適用を受けるためには、まず個人事業主が青色申告者であることが必要です。そして「青色事業専従者給与に関する届出書」を次の提出期限までに納税地の管轄の税務署に提出する必要があります。
■青色事業専従者給与を適用しようとする年
その年の3月15日まで
■その年の1月16日以降に新規に事業を開始した場合、又は新たに青色事業専従者がいることとなった場合
その新規事業を開始した日、又は新規青色事業専従者がいることと。
なった日から2か月以内。
この届出書には青色事業専従者の氏名、職務の内容、給与の金額、支給期などを記載するのですが、給与の金額については記載した金額の範囲までが必要経費となります。
そのため増額する場合には「青色事業専従者給与に関する変更届出書」を遅滞なく納税地の管轄税務署に提出する必要があります。
最後に
所得税法上で「生計を一にする親族」への支払と「生計を別にする親族」への支払は取り扱いが全く異なりますので注意が必要です。
また「白色事業専従者控除」よりも「青色事業専従者給与」の方が、実際に支払った金額が必要経費として反映されるため現実的です。まだ、青色申告者でない場合はこの機会に検討してみてはどうでしょう。
会計事務所から一言コーナー
「生計を一にする親族」の取扱いはどう捉えていくかによります。
例えば、生計を一にする親族所有の不動産を賃借して事業をしている場合に支払った家賃は必要経費になりませんが、減価償却費や固定資産税などその不動産に対して発生する経費のうち事業用部分については、その個人事業主の必要経費となります。
生計を一にする親族に家賃を支払って、その親族が減価償却費や固定資産税などその不動産に対して発生する経費のうち賃貸用部分の必要経費を差し引いて確定申告する手間を、結果的には省略したとも言えなくはありません。
厳しいと感じられるこの規定ですが、是非生計を一にする親族から不動産を賃借している場合は必要経費の計上漏れがないか確認してみましょう。また事業専従者については「専ら従事」の解釈がポイントです。
要は兼任ではなく専任ということです。そのため、他の会社の正社員である地位の方が個人事業主の事業専従者にはなれず、白色事業専従者控除も適用できずに青色事業専従者給与の支払も必要経費にすることはできません。
この部分が事業専従者の厳しいところです。適用する場合は要件を十分に確認しましょう。この「生計を一にする親族」への支払の取扱い規定については所得税法独特のものです。「法人」にはこのような規定はありません!!